解説

第1話 ゲルテン監督、訴えられる
Big Boys Gone Bananas!*

大企業が自社のブランドを守るために取りうる手段には何があるのか? スウェーデン人のドキュメンタリー映画製作者フレドリック・ゲルテンは、最近身を持ってこれを経験した。彼の前作『Bananas!*(本作では第2話)』は、大企業ドール・フード会社に反旗を掲げることに成功した12人のニカラグア人バナナ農園労働者を描いたストーリーだ。そしてこの作品は2009年のロサンゼルス映画祭のコンペティション部門に選ばれた。ここまでは、全く何の問題もなかった。

しかし、映画祭でのワールドプレミア上映に参加するためにスウェーデンを出発しようとしていたゲルテン監督のもとに、一通のメッセージが届く。それは、彼の作品をコンペ部門のノミネートから外すという映画祭実行委員会の決定だった。そして、プレミア上映の1週間前に、ロサンゼルス・ビジネス・ジャーナル紙の1面に映画について論争になりそうな誤解に満ちた記事が掲載された。その後、ゲルテン監督はドール社の弁護士から手紙を受け取った。その内容は、映画祭で上映するのなら、上映を停止するための法的措置を取るというものだった。

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ゲルテン監督は、それから起きた前代未聞の体験を映画という形で記録した。そこには、企業による嫌がらせからメディア操作まで、ドール社が行ったあらゆる手段が映し出されている。それは、名誉棄損の訴訟手続きによるプロデューサーへの攻撃や脅迫、そしてメディア統制や情報操作だ。この作品は、現代社会への警告だと捉えることもできるが、その大部分は、ドキュメンタリー映画監督であるゲルテンや彼の製作会社に起きた出来事と、ドキュメンタリー製作者の生活がどんなに危険にさらされやすいのかを描いた個人的なストーリーだ。

この作品では、自社のやり方を通すためには手段を選ばない多国籍企業の実態を明らかにしている。それによって、言論の自由が脅かされてもかまわない。ドール社の広告代理店はこの点について「企業に対する悪い評判に耐えるぐらいなら、やましい気持ちに耐える方が簡単だ」と述べている。

第2話 敏腕?弁護士ドミンゲス、現る
Bananas!*

第2話(Bananas!*)は、食料にまつわるグローバル政治や先進国と途上国の対立を背景にした、ある真実に迫る法廷ドキュメンタリーだ。

ドキュメンタリー製作や調査報道の分野ですぐれた実績を持つ、スウェーデンのフレドリック・ゲルテン監督が今回注目したのは、不正の事実の追跡と大きな論争を起こした画期的な裁判。それは、ニカラグアのプランテーション農園の労働者たちが、アメリカの巨大多国籍企業ドール・フード社を、有害な禁止農薬の使用とそれによる労働者たちの不妊被害で訴えるというものだった。

映画と裁判の両方の主役は、ロサンゼルスで個人の傷害事件などの裁判を扱う弁護士をしているホアン・アクシデンテス・ドミンゲス。街のさまざまな場所にアクシデンテスと書かれた大きな広告看板を出している、ラテン系アメリカ人コミュニティの有名人だ。そんな彼は今回、これまでの弁護士としてのキャリアの中で間違いなく最も大がかりで難しい事件に挑むことになった。

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これは、アメリカの裁判所で初めて行われる、ニカラグア人労働者たちの不妊被害裁判だ。その法廷代理人として、ドミンゲス弁護士と同僚のデュアンC.ミラー(Duane C. Miller)弁護士は、新たな分野を開拓していくことになる。この裁判結果は、今後ニカラグアで控えている同様の労働裁判の最初の先例になるだろう。またこの訴訟は、アメリカの多国籍企業で働く現地の労働者らが、アメリカの国土で陪審員たちの前で雇用企業を訴えることが許された最初の法的事例でもある。この裁判は、一方で労働者たちの将来の世代やその家族を賭けた、そしてもう一方でグローバルな多国籍ビジネス文化を賭けた争いなのだ。

裁判の行方は、世界中の専門家や企業に注目されている。ドミンゲス弁護士が勝訴すれば、被告であるドール社やダウ社の経済的基盤を揺るがしかねない。そして、アメリカを拠点とした多国籍企業によって世界中で被害を受けている人たちが、アメリカの裁判所へ訴えてくることにつながる。この裁判は、国際的な正義への新しい一歩となり、今後は似たような事例の裁判がアメリカのさまざまな裁判所に持ち込まれることになるだろう。

この作品は、ドール社を訴えて大論争を起こしたニカラグアの12人のバナナ農園労働者の裁判をめぐる法廷ドキュメンタリーだ。法廷内の様子を撮影した映像やドミンゲス弁護士や原告である労働者たちへのインタビューで明らかになる真実に、誰もが思わず引き込まれてしまうことだろう。